SSブログ
第1章「なぜ2か月なのか」 ブログトップ
前の10件 | -

目標を2か月に設定 [第1章「なぜ2か月なのか」]

新型インフルエンザに対し、国は「最低限(2週間程度)」の備蓄を推奨しています。その根拠は明らかではないものの、この病気が流行すると食料の生産、流通、小売りが機能を失う上、外出の自粛が求められます。このために、「食料が買えなくなるかも知れない期間」が出ることは農水省の備蓄ガイドに示されています。「最低2週間」はこの期間に対応した設定だろうというのが、前回までのおさらいです。

では、 「最低限」ではなく「望ましい」備蓄の期間はどのくらいなのでしょうか。国が示していないので、自分で考えるしかありません。

2007年秋に上梓された「H5N1型ウイルス襲来」(岡田晴恵著、角川SSC新書)は、当初、大きな反響を呼びました。国立感染症研究所研究員(肩書きは当時)というこの問題の専門家が、平易に新型インフルエンザの恐ろしさを解説した入門書だったからです。この本の中に手がかりがあります。

同書は日本で実際にパンデミックが起きることを想定して、場面ごとに解説しています。それによると、

1)海外で発生したら数日(場合によっては2、3日)で日本にやってくる

2)国内で流行したら、流通は停滞し、場合によってはストップしてしまう

3)感染を防ぐためにはできるだけ外出は避けるほうがいいし、政府もそのように呼びかける

4)従って「お金があっても食糧や日用品が買えない事態」が起きうるし、それに備える必要がある

と展開した上で、

「最低2ヶ月程度は買い物のために外出しなくても生活が続けられるだけの備蓄品を用意しておくことをおすすめします」

と明記しています。その根拠としては、「ひとたび新型インフルエンザが流行してしまったら、過去の流行の事例から、最初の流行は六〜八週間続くと考えられています」としています。

これまで見てきたとおり、6〜8週間という流行の期間は政府の想定と同じです。しかし、必要な備蓄の期間は政府が「最低2週間」、岡田さんは「最低2か月」と、4倍も違っています。

どうしてこれほどの差が出るのでしょうか。

東日本大震災後、政府の地震や原発の被害想定が甘すぎるという批判が噴出しました。

確かに実際に起こってみると「甘い」ことは明白なのですが、しかしながら、国民や住民の命や財産を守る立場の国や自治体が、「備えができないほどの大きな被害想定」を平時に示すのは極めて難しい作業だと思います。想定を出した以上、それに備えるのが仕事であり、備えられない想定を出すことは、自己否定につながるからです。責任放棄と言われるリスクもあります。

つまり、政府や自治体の想定には常に「過小評価バイアス」がかかっているというのが筆者の見立てです。一方で、岡田さんの記述は「警鐘を鳴らす」という職業的な役割から、むしろ最悪の事態を想定した対応を求めていると推測します。

であれば、岡田さんが「最低ライン」としている2か月の備蓄当たりが、ちょうどいい頃合いではないかと思います。現実的にも、よほどの広い家ではない限り、2か月分の備蓄というのは限界に近いものがあります。

当ブログはすでに、首都直下型地震について、望ましい備蓄期間を「1か月」と定めました。しかし、前回のブログに記した通り、一般家庭にとっては、備蓄の量や中身は震災にもパンデミックにも対応できないと、現実的ではありません。そこで、当ブログとしては、地震もパンデミックも含めた最適な備蓄量の目標を「2か月」分と定めることにします。

これで「第1章」は終了です。次回以降、備蓄の「中身」の議論に入っていきたいと思います。

 


地震と疫病、ばらばらの政府 [第1章「なぜ2か月なのか」]

気になることがあります。

 

当ブログで何度も触れていますが、国が推奨している食料などの備蓄量は、震災に対しては「最低3日」、パンデミックに対しては「最低2週間」です。

 

でも、そんなことを言われても多くの国民は困ってしまうだけです。震災用とパンデミック用で備蓄を二重に持つというのは非効率で、現実的ではないからです。

 

別の機会に詳しく分析しますが、パンデミック用の備蓄には、冷凍食品なども推奨されています。大震災が起きれば、停電によって痛んでしまう可能性が高いのです。

 

カサ店で、梅雨用のカサと、台風用のカサと、雪用のカサを別々に薦められたら、「全部に対応できるカサをくれ」といいたくなりますよね。

国民が知りたいのは、個々のリスクにそれぞれ対応するための備蓄量ではなく、トータルとして必要な備蓄量です。

 

なぜ推奨量がばらばらになっているのかというと、「地震」と「パンデミック」では、担当省庁が違っているからでしょう。

こういった場合にこそ、政治主導で物事を進めるべきではないでしょうか。内閣府には防災の特命担当大臣がいるわけですから、省庁間の調整を行って、地震にもパンデミックにも対応可能な備蓄量や中身を定めて、国民に示すべきだと思います。


「最低2週間」が国の方針 [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回まで、新型インフルエンザの爆発的感染(パンデミック)時に何が起こるかを国の想定をもとに見てきました。

繰り返しになりますが、一度ウイルスの侵入を許せば、国民の25%が感染し、ピーク時には働き手の4割が休んでしまいます。 食料の生産や物流は停滞し、買い急ぎや買い占めが起きて価格もつり上がります。スーパーなどの小売店も休業する可能性があり、お金があっても食品が手に入らないかもしれません。一定の備えがないと、あっという間に食事に事欠く状況に陥り兼ねません。

国も事態を軽視しているわけではありません。 厚労省が定めた「個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、次のような記述があります。

++++++++++

4)家庭での備蓄

○ 新型インフルエンザが海外で大流行した場合、様々な物資の輸入の減少、停止が予想され、新型インフルエンザが国内で発生した場合、食料品・生活必需品等の流通、物流に影響が出ることも予想される。また、感染を防ぐためには不要不急の外出をしないことが原則である。

○ このため、災害時のように最低限(2週間程度)の食料品・生活必需品等を備畜しておくことが推奨される。

++++++++++

すでに見てきたように、首都直下地震に対して国が求めている備蓄の量は「最低3日分」です。2週間は、このほぼ5倍ですから、国が想定する新型インフルエンザ被害の深刻さはこの数字からも明らかです。

ただし、このガイドラインには、2週間の根拠は明示的には示されていません。

別の機会に詳しく分析しますが、農水省の「新型インフルエンザに備えた家庭用食料品備蓄ガイド」には、「新型インフルエンザの流行の周期(流行開始から小康までの期間) は2 ヶ月間程度に及ぶと考えられています。この間、食料品を買う機会はあると考えられますが、できる限り長期間分、最低でも 2 週間分の食料品を備蓄することが推奨されます」との記述があります。

ここから考えると、「最低2週間」というのは、国が想定する「食料品を買う機会がなくなる」期間に対応していると推測されます。

そこで質問です。

「最低でも2週間は食料品を買う機会がなくなる」という想定の時、2週間分の備蓄で安心できますか?

筆者はできません。もっと長期の備蓄が必要だと考えます。

「個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、別添資料として、個人で備蓄する物品の例が記載されています。以下、参考のために引用しておきます。

++++++++++

(別添2) 個人での備蓄物品の例

○食料品(長期保存可能なもの)の例

米 乾めん類(そば、そうめん、ラーメン、うどん、パスタ等) 、切り餅、 コーンフレーク・シリアル類 、乾パン、 各種調味料、 レトルト・フリーズドライ食品、 冷凍食品(家庭での保存温度、停電に注意)、 インスタントラーメン、即席めん、 缶詰、 菓子、 ミネラルウォーター 、ペットボトルや缶入りの飲料、 育児用調製粉乳

○日用品・医療品の例

マスク(不織布製マスク) 、体温計、 ゴム手袋(破れにくいもの)、 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用)、 漂白剤(次亜塩素酸:消毒効果がある)、 消毒用アルコール(アルコールが 60%~80%程度含まれている消毒薬)、 常備薬(胃腸薬、痛み止め、その他持病の処方薬)、 絆創膏、 ガーゼ・コットン、 トイレットペーパー 、ティッシュペーパー 、保湿ティッシュ(アルコールのあるものとないもの)、 洗剤(衣類・食器等) ・石鹸 シャンプー・リンス、 紙おむつ、 生理用品(女性用)、 ごみ用ビニール袋、 ビニール袋(汚染されたごみの密封等に利用)、 カセットコンロ ボンベ、 懐中電灯、 乾電池


「作れない」「運べない」「買えない」。途絶する食料 [第1章「なぜ2か月なのか」]

政府が平成 21 年 2 月17 日にまとめた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の巻末には、「新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定(一つの例)」というタイトルの別文書が掲載されています。国民の4分の1が罹患する疫病の発生から終息まで何が起こるのかを時系列的にシミュレーションしたものです。

このブログは食料備蓄の適正な量と中身を定めるのが目的ですから、この目的に沿って、エッセンスを抜粋します。なお、筆者が重要だと考える部分のうち、食料供給に関連する部分は青色に、食料流通に関連する部分は緑色に、食料消費に関連する部分は赤色に加工しています。

++++++++++++++ 


新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定(一つの例)

第一段階

海外発生・国内未発生期。発生国・周辺国への海外旅行・出張の中止。

食料品・生活必需品を買い求める市民が増加。

第二段階

(国内発生早期) 

<感染状況>

○2週間後~4週間。国内で新型インフルエンザが発生、感染集団は小さく限られる 

<水際対策>

海外旅行・出張の中止 

○多数の在外邦人が帰国を希望 

○発生国との間を中心に定期便の多くが運航停止

<医療サービス>

○国民の不安が高まり、受診者が増加。

<集会・興行等の自粛要請>

○百貨店、劇場、映画館等の集客施設への来客が減少。休業する施設が増加。

○全国で集会・興行等の自粛要請。

<学校休校の要請>

○学校での感染拡大のおそれ。休校する学校が増加。 

○全国で休校の要請 

<不要不急の事業活動中止の要請>

○発生地域の公共交通機関・職場で感染のおそれ。一部の事業所が休業

○不要不急の事業活動自粛の要請

○公共交通機関における感染防止策の要請 

<一般企業の事業活動 >

○不要不急の業務の縮小

○事業継続計画に基づく人員体制等の変更 

 ・通勤手段の変更 

    ・時差出勤の導入 

    ・在宅勤務の導入  

<介護サービス(入所施設)>
 
○感染者が1人でも出れば、施設内は短期間でまん延 
 
<公共交通>
 
○外出自粛により公共交通機関に対する需要が減少
 
○徒歩・自転車・自動車等による通勤が増加 
 

<ガソリンスタンド>

○ガソリン不足を予想し、客が増加 

<通信>

○外出自粛や在宅勤務体制への移行等により、電話・インターネットの通信需要が増加

<金融>

○現金を引き出す市民が増加(ATMの利用が増加)

<物流(貨物運送、倉庫等)>

○事業活動休止又は稼働率低下により、物流量が減少

○中小事業者は休業する可能性

○宅配、通信販売等に対する需要が増加

<食料品・生活必需品の輸入・製造>

○市民の買い占めにより食料品・生活必需品が不足、価格上昇

<流通(小売、卸売)>

○中小事業者は休業する可能性

○宅配、通信販売等に対する需要が増加  

第三段階

(感染拡大期) 

 <感染状況>

○4週間後〜。国内で新型インフルエンザの大規模集団発生が見られる 

<医療の提供>

○受診者が急増

患者受入れ医療機関の拡大

○疑い患者への入院勧告(患者隔離)

<一般企業の事業活動>

○不要不急の事業の休止(従業員の安全確保と企業の存続等のバランスを勘案の上、必要最小限の事業を継続) 

○事業継続計画に基づく人員体制の変更 

<医療サービス>

○一部の医療機関では新型インフルエンザへの業務資源の重点的投入のため、診療科目を限定

○爆発的に需要が増え、医療機関における業務資源(医療従事者、医薬品、資器材、ベッド等)が大きく不足。一時的に業務を中断せざるを得ない医療機関が出現するおそれ 

<電気・水道・ガス・熱供給>

○感染防止の観点から、窓口業務やカスタマーサービス業務等を中断

○保守・運用の従業員不足により地域的・一時的に停電等が生じるおそれ

<公共交通>

○従業員不足により、運行本数が減少 

○外出自粛・通勤手段の変更により、公共交通機関への需要が大幅減少 

<ガソリンスタンド>

○公共交通機関を避け、乗用車の利用が増加するものの、社会活動水準が大きく低下するため、ガソリンに対する需要は減少

○発生国・地域によっては、燃料輸入が中断 

○従業員不足により、地域的・一時的に供給停止 

○中小企業の資金繰りが悪化

<通信>

○外出自粛や在宅勤務体制への移行等により、電話・インターネットの通信需要が増加

○通信需要増に伴う一時的な通信速度の低下

○窓口業務、カスタマーサービスの中断(従業員不足又は感染予防対策のため)

 <物流(貨物運送、倉庫等)>

○従業員不足による集配の遅延、サービスの中断 

○物流量が大幅に減少

○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 

<食料品・生活必需品の輸入・製造>

○海外での感染拡大に伴い、食料品等の輸入が一時的に中断
 
○国内での感染拡大伴い、食料品等の製造が減少 

 

流通(小売、卸売)>

○従業員不足・休市等により卸売市場機能が低下し、生鮮食料品等の流通も一時的に中断 

○小売店の従業員不足や物流機能の混乱により物資流通が遅延又は中断

○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 

 

第三段階

(蔓延期、回復期)

<感染状況>

6週間後〜

○国内で急速に感染が拡大 

○国内侵入から 6〜7 週目に感染がピーク、8 週目以降から減少傾向

○地域毎にピーク時期は異なる、地域毎の流行期間は 6~8 週間程度

<水際対策>

○海外渡航全般の自粛勧告

○国内での感染拡大に伴い、水際対策を終了

<医療の提供> 

○患者が急増し、病床や医薬品が不足

<集会・興行等の自粛要請>
 
○集客施設へ来客が激減。全ての施設が休業
 
○全国で集会 興行等の自粛要請
 
<学校休校の要請> 
 
 ○全国全ての学校が休校
 
<不要不急の事業活動中止の要請> 
 
○公共交通機関の本数減少。多くの事業所が休業
 

第四段階

(小康状態) 

<感染状況>

17週間後〜

上記のもろもろの事象が徐々に平常時に復旧へ


+++++++++++++
 
この表の色つき部分を見ながら、食料供給に何が起きるのかを考えます。
 
食料生産は減少します。世界的な感染爆発ですから、○国内での感染拡大伴い、食料品等の製造が減少するのみならず、海外での感染拡大に伴い、食料品等の輸入が一時的に中断します。感染の拡大に伴って農業や水産業などの第一次産業従事者の生産活動が内外で低下するためですが、食料供給の約6割を他国に依存している日本にとっては、危機的なことです。
 
食料流通にも大きな制約が発生します。
貨物運送、倉庫等では、○従業員不足による集配の遅延、サービスの中断 が想定されていますが、心配はそれだけではありません。
 
国内感染の初期では、 ○外出自粛により公共交通機関に対する需要が減少する一方で、ガソリンスタンドは、○ガソリン不足を予想し、客が増加します。続いて、産油国など○発生国・地域によっては、燃料輸入が中断 することも予想されています。例え感染しなかった従業員が何とか荷物を運ぼうとしても、燃料が足りない可能性があるのです。
 
一方で、感染の拡大に伴って、人々は自宅に籠もるようになります。感染のピーク時になれば、政府は外出自粛を呼びかけますし、そうでなくても、会社も休業、学校は休校、大規模な集会施設やイベントは閉鎖します。罹患した時でさえ、大量の患者をさばき切れない医療機関は重症でない限り、自宅での安静を求めることになります。その結果、○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 するのです。
 
このことは、ただでさえ細っている物流網をさらに逼迫させることになると思います。小口多頻度輸送の代表である宅配や通販が増えれば、物流の効率は低下します。人員、燃料が限られた中では、いっそうです。
 

その結果として、○物流量が大幅に減少します。

卸業者や小売業者では、○従業員不足・休市等により卸売市場機能が低下し、生鮮食料品等の流通も一時的に中断 します。○小売店の従業員不足や物流機能の混乱により物資流通が遅延又は中断します。

つまり、食料は「作れない」「運べない」「買えない」という三重苦に陥り兼ねないのです。

消費の現場では、国内感染が始まる前から、食料品・生活必需品を買い求める市民が増加。国内感染が始まると○市民の買い占めにより食料品・生活必需品が不足、価格上昇します。外出自粛になれば、会社にも学校にも行かずに自宅に籠もる必要がでてきますから、食料が自宅にあるかないかは死活的な問題になりかねません。

このブログの第1回にも記した通り、 東京都の食料自給率はわずか1%。神奈川県は3%、千葉県でも約30%です。首都圏は、他地域からの食料供給が途絶すると、途端に干上がる構造に置かれているのです。だから、首都圏住民は特に、食料備蓄を充実させる必要があります。

しかも、全国的な感染は8週間続くと想定されています。食料供給が正常に戻るまで、家族が食いつなぐ手立ては自分たちで考えるしかないのです。地震と比べると、人的な交流が遮断されるパンデミックは孤独な戦いといえます。


 

 



身構える時間はある [第1章「なぜ2か月なのか」]

政府が平成 21 年 2 月17 日にまとめた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、新型インフルエンザが発生した場合に社会や経済がどうなってしまうかのシミュレーションが記されています。これから数回にわけて、解説してみます。まずはインフルエンザの被害概要です。

++++++++++++++++ 

新型インフルエンザによる人的被害

発症率 25%(「新型インフルエンザ対策行動計画」による) 
致死率 0.5%~2.0%
欠勤率

 20~40%

・最大40%程度の欠勤率

・業種・地域により流行のピークに差がある

(被害想定作成上の1 つの仮定) 

欠勤期間

 10 日間程度

(被害想定作成上の1 つの仮定) 

到達時間 

 海外で発生してから日本到達まで2~4 週間程度

 (被害想定作成上の1 つの仮定)

流行の波

 流行は8 週間程度

・国の介入により変わる可能性あり(流行のピークがなだらかで期間が長引くなど)

・地域により、流行のピークの大きさや時期に差が生じる可能性ある 


ここから、色んなことが読み取れます。

まず第一に、地震との比較で言えば、パンデミックはやや、時間に余裕があるかもしれないということです。

この想定では、海外で発生してから日本に到達するまでに最低でも2週間あります。もちろん、もっと早く日本に入ってきたり、あまりなさそうとはいえ、日本が最初の発生地になったりする可能性もゼロではないでしょうが、それでも、突然襲ってくる地震に比べれば、対応する時間は十分すぎるほどあります。これは地震にはない大きな救いです。

一方で、 地震に比べて過酷なのは、被害が国民の25%にも及び、流行が8週間も続くことです。罹患すると10日間は欠勤し、ピーク時には欠勤率は40%に達します。4割の人たちが仕事を休んでしまうのです。当然、社会の機能はマヒしてしまいます。

「ガイドライン」はその最後に、 「新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定」と題した別文書を含んでいます。そこには、社会の機能がどうマヒしていくのかが、順を追って説明されています。



「パンデミック」ケース [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回まで、首都直下地震を想定して備蓄期間を検討してきました。今回からは、もう一つの検討対象である「パンデミック」ケースについて考えたいと思います。

パンデミックとは、一般用語としては疫病の世界的大流行という意味ですが、多くの場合、致死率の高い(高病原性)鳥インフルエンザウィルスが人から人に爆発的に感染する事態を示す言葉として使われています。鳥インフルエンザの人から人への大流行が、人類を脅かす差し迫った危機として世界共通の認識となっているからです。

我が国政府も平成19年10月26日に「新型インフルエンザ対策に関する政府の対応について」を閣議決定しています。

平成17年11月に策定した「新型インフルエンザ対策行動計画」は、数度の改訂を経て、平成21年 2月17日に最新バージョンに差し替わっています。

なお、2009年春ごろから2010年にかけて世界的に大流行した豚由来の「新型インフルエンザ」(A/H1N1)は、今年4月から「通常の季節性インフルエンザ」の一つに”格下げ”されました。従って、このブログで扱う「新型インフルエンザ」には含まれません。

以下、政府(内閣府)による説明です。
++++++++++++++
●新型インフルエンザとは?
 新型インフルエンザは、毎年流行を繰り返してきたインフルエンザウイルスとはウイルスの抗原性が大きく異なる新型のウイルスが出現することにより、およそ10年から40年の周期で発生しています。ほとんどの人が新型のウイルスに対する免疫を獲得していないため、世界的な大流行(パンデミック)となる可能性があります。
 病原性が高く感染力が強い新型インフルエンザの発生・流行は多数の国民の生命・健康に甚大な被害を及ぼすほか、全国的な社会・経済活動の縮小・停滞を招くことが危惧されており、国家の危機管理の問題として取り組む必要があります。
 新型インフルエンザの発生・流行に備え、政府一体となった取り組みを進めており、国における対策はもちろんですが、自治体や企業、さらには国民一人一人が正しい知識を持ち、必要な準備を進め、実際に新型インフルエンザが発生した際に、適切に対応することが大切です。
++++++++++++++
さて、最新版の「新型インフルエンザ対策行動計画」に記された被害は想像を絶するものがあります。

○罹患率 全人口の約25%
○医療機関受診患者数 1,300万人~2,500万人
○死亡者数17万人~64万人
○従業員の欠勤最大40%程度

首都直下型地震で想定されている死者が1万人規模なのに比べると、64万人というのはケタ違いの死者数です。日本人の4分の1がかかり、企業で働く4割が会社を休んじゃうのです。
専門家の中には、こんな程度じゃすまないと考える人もいます。

「行動計画」が

○感染拡大を可能な限り抑制し、健康被害を最小限にとどめる。
○社会・経済を破綻に至らせない。

ことを目標においているのも頷けます。

首都直下型地震の場合、本震の大きさや起きる季節、時間帯で被害の様相は一変します。
比較的小さいマグニチュードで、風の弱い、休日の深夜に起きるのと、想定外の大きなマグニチュードで、強風下、人々が会社や学校から帰宅したり、夜ご飯の準備を始める夕方に起きるのとでは、被害の大きさはかなり異なります。だから、国も自治体も、複数のシナリオを検討して、最大級の被害に備えようとしています。

しかし、パンデミックの被害想定に複数のシナリオはありません。世界的な流行が始まれば、ほどなく日本にも上陸し、感染者は爆発的に広がります。
しかも、パンデミックは、確実に起きるだろうと思われているのです。ifではなくwhenの世界だという人もいます。

そう考えると、地震よりも恐ろしいかも知れません。

ここでも、食料備蓄は生き残りのカギを握っています。どう対応すべきなのか、考えていきたいと思います。


水道復旧までの辛抱 地震対応は1か月メドに [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回のブログで詳細に見てきたように、国の想定に従えば、避難所生活者の数は水道の復旧状況に大きく左右されます。

中央防災会議のシミュレーションによると、1000人の避難者の自宅で水道供給が復活すれば、611人は避難所から、329人は疎開先など避難所以外の避難先から、自宅に戻ります。60人ほどはそのまま避難生活を続けます。

逆にいえば、断水が続いている限り、膨大な数の避難者が避難所で生活を続けます。

水がないと煮炊きが出来ず、風呂にも入れず、洗濯もできず、通常の生活は行えなくなります。だから、水不足=自宅の放棄となるわけです。

しかし、国が警告しているように、避難所にも、水や食料が十分あるとは限りません。特に被災当初には全然足りないと考えたほうがいいです。

もちろん、被災地に対し緊急物資の輸送が必死で行われるでしょうが、水や食料の供給量は急に増やせないので、避難者の数が多ければ多いほど、物資は行き渡らなくなります。

阪神・淡路大震災でも「発災当日の食糧は、1月下旬の1/5。安定するのは1月26日頃」(『あのとき避難所は 阪神・淡路大震災のリーダーたち』)でした。安定供給までに10日ほどかかっています。被災地域が広範囲に渡った東日本大震災では、1か月後でもなお、3割近い避難所で、十分な食料供給が得られていませんでした。

まして、両大震災の10倍をはるかに超える避難所生活者が生み出される首都直下地震では、多少の援助物資は砂漠に水をまくように消えてしまうと考えた方がいいと思います。「東京湾北部地震」で想定されている避難所生活者460万人はニュージーランドの人口と同じ。1か月後になお残っている270万人でさえ、モンゴルの人口と同じくらいなのですから。

であれば、最大の焦点は、水道の復旧時期です。東京都の想定を見てみます。

「東京湾北部地震・冬の夕方、風速6メートル」の場合の断水率は、

1 日後  34.8%
4 日後  7.0%  
1 週間後 5.7%
1 か月後 0.0%    
         
水道の復旧には30日かかることになっています。

ところが、同じ東京湾北部地震でも、千葉県の想定では、すでに見てきたように、水道の復旧に約71日間かかります。一方、神奈川県の想定では、10日で済みます。

なぜこんなに違うかというと、東京湾北部地震が与える影響が地域によって違うからです。

神奈川県の場合には、むしろ、全県域で震度6弱が見込まれる「南関東地震」の方が被害が大きく、水道の復旧は40日程度かかると想定されています。

こうしてみると、その地域で最大規模のダメージを与える地震が起きた場合、水道の復旧は「最低でも30日」はかかると考えておいたほうがよさそうです。

そこで、食料備蓄の合理的かつ効率的な水準を目指す当プロジェクトとしては、地震対応では、「水道が復旧する1か月間の備蓄」をメドにしたいと思います。ここまで持ちこたえれば、避難所生活を避けることができる可能性が高そうだからです。

もちろん、お金と自宅に余裕がある人は、もっと多い備蓄を持てばより安心と思います。筆者のように千葉市在住の場合、71日間も水道が出ないかも知れないのですから。あまり想像したくないですが、深刻な食料不足が仮に70日超の長期に及べば、想定よりも避難所人口は減っているかも知れませんが。

首都直下地震に対する検討はとりあえず今回で終わり。これからは、疫病の爆発的流行(パンデミック)ケースを検討していきます。

 


避難所で予想される混乱・トラブル [第1章「なぜ2か月なのか」]

首都直下地震に被災した場合、仮に自宅に被害がなくても、水や食料の蓄えがなくなってしまえば、避難所に身を寄せるしかなくなります。

そこで、今回は、避難所の状況を予想してみます。

2005年7月の中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会報告」からの引用です。

+++++++++++++++++

東京湾北部地震において初日に約 700 万人(18 時,風速 15m/s)の避難者の発生が予測される。そのうち、避難所生活者は約 460 万人である。1 ヶ月後に断水人口が5%まで復旧した場合でも、約 270 万人の避難所生活者が残存するものと予測される。(一部省略しています)

これに伴って、以下のような問題が想定される。

[飲食料・生活必需物資の不足]

避難所生活者数が膨大なことから、家庭内備蓄や地元都県及び市区町村による公的な備蓄だけでは、必要量の確保が困難となる。

+++++++++++++++++

被災の想定に「断水人口」が関係しているのは、自宅の水道が出るかどうかが、避難の判断に大きく影響しているためです。

中央防災会議が避難者数を推計する時に使う数式は以下のようなものです。

(被災翌日)

・避難人口=全壊・焼失人口+0.503×半壊人口+0.362×断水率×被害なし人口

阪神・淡路大震災の被災者に行ったアンケート調査の結果、被災の翌日に避難した人は全壊住宅で 100%、半壊住宅で 50.3%、軽微又は被害なし住宅で36.2%いたことから導き出された数式です。住宅に被害がなくても、水が出なければ、3割以上の人が翌日には避難してしまう想定になっています。

(被災4日後以降)

・避難人口=全壊・焼失人口+0.503×半壊人口+0.362×断水率×被害なし人口+0.91×(1−0.362)×断水率×被害なし人口

被災翌日の避難者数に「0.91×(1−0.362)×断水率×被害なし人口」を加算した式です。加算した部分が何を意味しているのかといえば、

「被災から4日後になると、断水にもかかわらず自宅で暮らしていた人のうちの91%が、避難を始める」ということです。阪神・淡路大震災後の都市住民の意識調査で、断水が続いた場合、被災から4日後で約 91%が「限界である」と回答していることを根拠にしています。

4日目以降の数式を展開、整理すると以下のようになります。

・避難人口=全壊・焼失人口+0.503×半壊人口+0.94258×断水率×被害なし人口

4日目以降で、全壊・焼失人口、半壊人口、被害なし人口が大きく変動するとは思えませんから、避難人口はもっぱら、断水率=水道の回復具合によって決まるということになります。

さて、国の想定では、水道の復旧が予想通りに進んだ場合でも、被災後1か月たっても、一都三県の避難所に270万人もが暮らしています。

東日本大震災や阪神・淡路大震災と比較して見ます。

避難所生活者の数 1か月後
東日本大震災 147536
阪神・淡路大震災 209828
東京湾北部地震 2700000


文字通り、ケタ違いに多数の人たちが、避難所暮らしを余儀なくされるのです。

では、被災後の避難所はどんな様子なのでしょうか。内閣府のHPに紹介されている阪神・淡路大震災や東日本大震災のデータを拾ってみました。

 <阪神・淡路大震災> (被災から72時間までの様子です)

◆神戸市内での救援物資配布状況によれば、発災当日の食糧は、1月下旬の1/5。安定するのは1月26日頃[松井豊・水田恵三・西川正之 編著『あのとき避難所は 阪神・淡路大震災のリーダーたち』ブレーン出版(1998/3),p.31]

地震が発生した1月17日から20日頃までの間は、避難者にとって食料、毛布とも不足気味であり、神戸市では食料、西宮市では毛布の配布数が少なかったことがわかる。このような状況に陥ったのは、十分な備蓄物資がなかったこと、義援物資の受け入れに忙殺され配布までに手が回らなかったこと、正確な避難所数や避難者数の把握が遅れたこと、物資配布のための輸送手段がなく、また、主要道路が極端に渋滞していたこと等々の要因が考えられる。[『阪神・淡路大震災調査報告書 −平成7年兵庫県南部地震東京都調査団−』東京都総務局災害対策部防災計画課(1995/7),p.259]

◆ (兵庫県立兵庫高校)夜、避難者一人につきパン1個を教職員が配布しようとしたが、全員に行き渡らない。配給時には混乱し、制止もままならない状況で、配給している教職員の胸ぐらをつかみ「もっともってこんかい」と怒りをぶつける避難者もいた。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.85]

◆ (神戸市長田区の蓮池小学校)午前七時に、おにぎり千食が用意されたが、あっという間になくなった。同八時にはカンパン千二百食が配布されたが、列を作った全員には行き渡らず「不公平だ。整理券を配れ:と職員の詰め寄る住民も。[毎日新聞夕刊『飲まず食わず 募る不安』(1995/1/18),p.-]

◆ (神戸市兵庫区・神戸市立兵庫大開小学校)19時半、兵庫区役所から、食パン6,000個と菓子パン3,000個が届いたので教職員が配布。避難者全員分(2,000∼3,000人)には足らず、騒然とする。そのとき、報道のカメラマンがフラッシュをたき、避難者に殴打される。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.120]

◆交通事情の混乱のために場所によっては大幅に物資の搬入が遅れ、避難所では当初大きな混乱が起きた。1000人以上の避難者がいたのにかかわらず、17日夜までに握り飯150個、リンゴ2箱しか届かず、不足しすぎているため翌朝まで配分できなかった例。18日になってパンなどが届き、民生委員や自治会役員等に世話を頼んで配分したが絶対数が足りないためにパニックになった例。17日夜、パンなどが届き、個数は十分あると判断して校庭に並んでもらったが列がいつまでも途切れず、最後には半分にしたがついになくなり、子どもが持っていたパンを大人が奪い取って行ったり、配給していた教職員が蹴られ危険な状態になったという例など、当初の食糧配給時に大混乱になったところが多い。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.71]

◆(被災地市民グループインタビュー結果)避難所でたこ焼きを焼いて無料で配ったことがあったが、数に限りがあるので並んでいる人だけに配布すると言っても、中にいる家族の分も求められ、トラブルになったことがあった。物資の配布を早い者勝ちにしたり、段ボールで区画を作ったりして、大規模の避難所では混乱していたところが多かったようだ。[(財)阪神・淡路大震災記念協会『平成11年度 防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域)報告書』(2000/3),p.15]

◆行政機関から、1人1枚ずつわたる数になるまでは配布しないよう指示があり、切望する避難者が目の前にいながら配分出来なかったという例。食糧についても同様の指示があり、置いたまま腐らせてしまったという報告もある。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.71]

◆ (伊丹市立池尻小学校)9時頃、市災対本部からパンと牛乳が届き、教職員が配布を始める。あせって前の人を押しのける人もおり、パニックになった。一人で二回並んだ人も多く、結果的に足りなくなった。この後、近くの量販店が開店していること、個人的な差し入れ等があることがわかり、混乱は少なくなってきた。[『災害と対応の記録ー阪神・淡路大震災ー』伊丹市(1997/3),p.107-108]

◆ (神戸市長田区・神戸市立志里池小学校)夜、区災対本部からコッペパンとゆで卵が届く。一人一個は到底行き渡らないので、元PTA会長等が中心になって数人でちぎって配布することにした。[神戸市教育委員会『阪神・淡路大震災 神戸の教育の再生と創造への歩み』(財)神戸市スポーツ教育公社(1996/1),p.140]

◆[引用] (芦屋市立宮川小学校)夕方、市災対本部から19時に弁当が届くという連絡があったが、実際には21時におにぎり1,000個が届いただけだった(避難者一人一個)。おにぎりは、運動場に設置したテントで配給し、病人(約30人)には、教職員と避難者有志が枕元に届けた。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.115]

◆[引用] (西宮市立安井小学校)夕方、初めておにぎりの差し入れ(490個)が届いた。しかし、避難者が1,000人を超えていたので、老人と子どものみに配布する。[渥美公秀・渡邊としえ「避難所の形成と展開」『阪神大震災研究1 大震災100日の軌跡』神戸新聞総合出版センター(1996/5),p.83]

◆ (神戸市東灘区・神戸市立福池小学校)12時、老人会会長が近所のスーパーからパンと牛乳等をもらってくる。牛乳は小分けして配ったが、全員には行き渡らない。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.58]

◆ (西宮市立大社小学校)15時、救援物資のおにぎりを避難者2人に1個、買い出ししてきたバナナを1人に1本配布する。[『震災を生きて 記録 大震災から立ち上がる兵庫の教育』兵庫県教育委員会(1996/1),p.58]

 ◆ (既存アンケート調査のまとめ) 明石市民の地震発生当日の行動を見ると、「食料品の確保」のため、多くの市民がスーパーや食料品店に殺到したため、品切れの店が続出した。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.79]

◆(被災地市民グループインタビュー結果)当日朝9時30分頃に地域唯一の店舗に買い物に行くと長蛇の列ができていた。一人二点ということだったが、既に残っているのは調味料だけだった。...(中略)...2日目も店舗では2点ずつしか買えず、家族が増えた家が多い中でみんな大変だったが、「赤ちゃんがいる家庭を優先させよう。皆でゆずりあいましょう。」と大きな店舗の中で、何人かで叫んでお願いした。」[(財)阪神・淡路大震災記念協会『平成11年度 防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域)報告書』(2000/3),p.15]

次に東日本大震災の避難所を見てみます。国が実施したアンケート調査の一部です。

被災三県の避難所アンケート調査 


単位% 毎日、おにぎりやパンのみ おにぎりやパンに、時々、おかずが加わる おにぎりやパンに、時々、おかずや温かいもの加わる 毎日、おにぎり、パン、おかずが出るほか、時々温かいもの加わる 毎日、おにぎり、パン、おかず、温かいものを食べられる
4月6〜10日 0.3 1.9 22.3 15.5 60.1
4月13〜17日 0 1.6 11.7

16.3 

70.4
4月20〜24日 0.2 0.4 10.8 16.2 72.4
5月9〜13日 0 0.4 8 15.5 76.1

 

被災は3月11日ですから、1か月後にも3割の避難所で、十分な食料が行き渡っていないことがわかります。このうち、1割強は、おにぎりやパンに「時々おかずや温かいものが加わる」程度の食事を続けています。

ここで、次のグラフを見てください。

自治体職員数と避難者数.jpg

黄色い棒グラフは、避難所生活者数です。赤い菱形の点は、自治体職員一人当たりの避難所生活者数です。自治体職員数は県、市町村すべてを単純合計しています。 もちろん、自治体職員全員が避難所のお世話をするわけではないのですが、ざっくりと規模感を比較したいと思います。

 東日本大震災では、ピーク時で避難所生活者は45万人、自治体職員1人当たりで3人でした。 これに対し、「東京湾北部地震」では、ピーク時の避難所生活者数が460万人で、自治体職員1人当たりの人数は7人超。被災1か月後であってもなお、自治体職員一人当たり4人超の避難所生活者がいます。東日本大震災のピーク時よりも多いのです。

首都直下地震の避難所では、阪神・淡路大震災のような都市部に特有の混乱が、東日本大震災をはるかに上回る規模で起きると懸念されます。水と食料を自宅に確保しておく重要性を改めて指摘しておきたいと思います。


「最低3日」が国の方針 [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回まで、首都直下地震のうちでも最も恐れられている「東京湾北部地震」に関して国や東京都などが想定する被害を長々と見てきました。改めて物流面への影響を整理すると

1)被災直後は、大量の徒歩帰宅者や帰宅難民で道路があふれかえり、一部の幹線道路は通勤電車並みの混雑となる。

2)被災直後は、多くの生活道路が、火事や建物の倒壊により通れなくなる。一方で、都内の主要幹線道路は緊急車両を優先し、一般車両は通行止めになる。

3)各所で道路の橋梁や橋脚が損傷する。在来線の鉄道網にも大きな被害が出る。

4)高速道路、新幹線などの線路にかかる跨線橋が落ちたり、倒壊した建物が高速道路に落ちたりして、高速輸送の大動脈にもダメージが予想される。

5)港湾機能も相当程度いかれる。

という状況が起きます。被災した直後から一定期間は、首都圏には大量輸送ができなくなるのです。

問題は、「一定期間」の長さです。

国の中央防災会議が2005年9月にまとめた「首都直下地震対策大綱」には、ライフラインの復旧目標が記されています。このうち物流に関する部分は、

○道路
 緊急輸送道路のうち、首都中枢機能の継続性確保のために特に重要な区間については、道路橋の被災、沿道建築物の倒れ込み、渋滞等による通行障害が発生しても、1 日以内に緊急車両等の通行機能を確保できるようにする。

○航空
 1時間以内に被災状況の確認を行い、その後順次、応急復旧を実施した滑走路等により運用を開始する。

○港湾
 ライフライン拠点施設に近接する緊急物資輸送に対応した岸壁等については1日以内に利用できるようにする。

となっています。

「道路」に関しては、「首都中枢機能の継続性確保のために特に重要な区間」がどこかに当たるかが不明です。首相官邸、国会、中央省庁、日銀、東京証券取引所等を含むエリアかなあ、と思います。いずれにしても、被災者が大量に出る住宅地ではなさそうです。

「港湾」についても、「ライフライン拠点施設に近接する緊急物資輸送に対応した岸壁」の具体的なイメージは書いてありません。 しかし、海岸沿いのライフライン拠点施設といえば、発電所や製油所が思い浮かびますので、原油や天然ガスの積み下ろしが想定されているのではないかと思います。少なくとも、一般の食料を対象とした岸壁ではなさそうです。

つまり、復旧目標は、国の中枢機能を維持するために定められているのであり、一般の被災者、住民の救済のために定められているのではないのです。

もちろん、国の中枢機能が維持できなければ、一般国民の救済や復興もできないわけですから、当然と言えば当然ですが、首都の被災は、他地域の被災とは異なり、優先順位が被災者救済より国家機能の維持に置かれていることを忘れてはいけないと思います。

では、「一般国民にとっての物流」が機能を回復する期間はどのくらいなのか。

残念ながら「大綱」には、見通しも目標も書いてありません。しかし、一般家庭の食料備蓄については、あっさりとですが、触れています。その部分を引用します。

「国、地方公共団体は、各家庭において最低限3日分の食料・飲料水及び生活必需品の備蓄を促進する」

なぜ「最低限3日」なのか根拠は示されていませんが、それ以降は徐々に物流が回復するという前提があるのは、間違いないでしょう。

しかし、「最低限」という言葉には、「本来それでは不十分」という含意があります。これは危機管理の問題なのですから、「最低限」だけではなく、「できれば望ましい」日数や「これならほぼ十分」な日数を示してもらわないと、備えることができません。命がかかっている問題について、「最低限」の水準だけを示されても、困ってしまいます。

筆者は、「3日間」の復旧は相当に難しいと考えています。これまでの被災想定を見れば、そう簡単ではないというのが実感ですし、以下のように、関係者自身が、3日間の復旧には確信が持てていないことがうかがえるからです。

この大綱の叩き台となった中央防災会議の「首都直下地震対策専門調査会報告案」には、「鉄道」に関する記述があります。次の通りです。

「被災の程度が小さい鉄道では、発生から1時間以内に被災状況の確認を行い、3日以内に順次運転を再開し、要員の輸送を支援する」

この部分は、「大綱」からはそっくり外されています。

「報告案」は「航空」に関しても、

「3日以内に、応急復旧を実施した滑走路等により順次運用を開始する」

と明記していました。この、「3日以内に」の部分も「大綱」からはすっかり消えています。

「大綱」で削られた部分は、要は運用当事者の立場から見て、実現する見通しや保証がないということだと思います。鉄道や空運が、3日以内に運用を開始するのは難しいと読むべきだと思います。

 


結局、頼りは自分(千葉県の想定より) [第1章「なぜ2か月なのか」]

拙宅がある千葉県の被害想定も見ておきます。基本的に起きることは東京と同じですので、数字だけを引用します。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
2 被害規模が最大となる東京湾北部地震での主な被害(冬の18時 風速9m/s)

物的被害(建物・交通施設・ライフライン)

(1)建物全半壊 220,076棟
全壊 68,692棟
半壊 151,384棟

(2)道路橋梁 31箇所(通行止め1か月程度)

(3)港湾施設 25箇所

(4)電力 停電戸数 203,999戸(応急復旧日数  6日)

(5)都市ガス 停止戸数 374,533戸(応急復旧日数 14日)

(6)LPガス 漏洩戸数 23,667戸(応急復旧日数 約3日)

(7)上水道 断水戸数 1,471,675戸(応急復旧日数 約71日)

(8)工業用水 被害箇所数 60箇所(応急復旧日数 28日)

人的被害(死傷者・避難者・帰宅困難者等)

(1)死傷者数 42,972人
死者数 1,391人
負傷者数 41,581人

(2)避難者数(1日後)1,455,977人

(3)帰宅困難者数 1,087,816人

(4)自力脱出困難者数(注) 10,162人

(5)エレベーター閉じ込め台数 7,963台

(6)大規模集客施設の滞留者数
成田国際空港 約20,000人
東京ディズニーランド及び
東京ディズニーシー 約50,000人
幕張メッセ 約7,500人

(注)自力脱出困難者とは、建物の倒壊によって下敷き・生き埋めとなり、救助が必要となる者。

 経済被害額(直接被害) 約9兆8千億円

(1)建物 9兆1,855億円
(2)ライフライン 4,178億円
(3)交通施設 1,507億円
合計 9兆7,540億円

その他

(1)震災廃棄物 重量4,970,861トン 体積7,036,998立方メートル
(2)タンクのスロッシング(注)の高さ 最大3メートル
(注)液面が波立って大きく上下すること(液面揺動)。
大型の石油タンクが地面の揺れに共振したときに、スロッシングが発生する。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
目を引くのは、

(2)道路橋梁 31箇所(通行止め1か月程度)

という部分ですね。かなりの期間、交通網は混乱が避けられないと想定しておいた方がいいでしょう。

それと、上水道の応急復旧が約71日となっているところも気になる点です。優に2か月以上もかかってしまうのです。

この間、行政の給水に頼るという考え方もあるかもしれませんが、被災者の数や行政当局の供給能力を考えると、後にも出てきますが、どこまで当てになるかわかりません。自力で水の確保を考える必要があります。

上記のシミュレーションの他にも、千葉県の被害想定ホームページは、かなり充実しています。
私が感心したのは、どの場所がどの程度危険かを地図で知らせてくれることです。

http://www.bousai.pref.chiba.lg.jp/portal/webmap/higai/index.html

ここにいくと、番地まで指定して、地震の揺れ具合とか液状化危険度とか斜面の危険度がばっちりわかります。千葉県民は、一度は見ておいた方がいいと思います。

また、「被害イメージ」というコーナーで、実際に被災した場合に何が必要なのかをストーリ仕立てにしてあるのも興味深いです。


備蓄を考える上で、色々な示唆がありますので、関係部分をかいつまみます。下線は筆者が引いています。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 「発災後数日間、どうやって暮らせばいいの? 」

(1)断水でトイレも流せない

▼断水した自宅で数日間を過ごすために
 自宅やオフィスが無事な場合でも、ライフラインが停止すると生活や業務を続けていくのが困難になります。特に、水道は広範囲に渡って停止することが考えられるため、飲料水や生活用水、またトイレが使えなくなることが予想されます
 行政等の支援により、給水が行われ、避難所に仮設トイレが設置されるなどの対応も可能な限り迅速に行われます。しかし、水道が使えなくなった世帯が全て避難所に避難するような状態になると、膨大な数の避難者数となり、支援も行き届かなくなるほか避難所にすら入れない可能性があります。
 千葉県が行った被害想定結果では、東京湾北部地震の発生時、断水が原因で避難する避難者数は、1日後で約103万人、4日後でも約31万人と予測されています。少しでも避難者を減らすためには、断水時でも住宅が無事な方は、自宅で過ごせるような準備が求められます。
 例えば、非常用の飲料水の確保(飲料用ペットボトルを少し多めに確保する)、給水時の上水運搬用のポリタンクの用意、風呂の残り湯で便器を洗浄する方法を知っておくことで対応が可能です。

▼数日間、外出せずに生活するために
 電気の供給が止まると、照明がつかないことはもちろん、テレビもパソコンも起動できませんし、暖房、冷房器具も動かせず、現代の生活を続けることはできません。真夏や真冬には、より厳しい生活が予想されます。携帯電話の電池も切れ、情報を入手する手段が限られてしまうことも考えられます。
 何より、高層マンションや高層オフィスで生活、仕事をしている方々は、発災直後にエレベータ内に閉じ込められる恐れがあります。エレベータが停止すると非常階段以外に移動手段がなくなってしまいます。給水や、食事の配給等を行っている場所まで行くためにも非常階段を使わなくてはならず、結局避難所への避難者が増えることになります。あなたが生活、仕事をしている階から何度も地上まで往復できますか?
 千葉県の被害想定結果では、東京湾北部地震の際、エレベータの停止により避難所に避難する人が発災1日後に約5,800人、発災4日後でも約3,500人と予測されています。
 エレベータが使えない場合でも、自宅やオフィスで水や食料、携帯トイレを準備することで、階段を上り下りする必要性は減らせます。また、情報を得るにはラジオが役立ちます。携帯型のラジオのほか、手回しで充電できるタイプの「防災ラジオ」も市販されています。

(3)学校に避難した
▼避難所の運営は、被災者自身で行う
 避難所は基本的に市町村が指定します。主に、小中学校や公共施設が指定されていますが、避難所は、学校の先生や職員が運営するものではなく、あくまでも「避難者が自主的に運営する」のが本来の姿です。特に大規模な災害により、避難者が大勢になった場合、避難者は、自主防災組織や自治会などを中心とした避難所運営の体制を作り、避難者の代表が組織の中心となって、避難所を運営します。そして、市町村職員がその運営を支援し、学校関係者にはできるだけ世話をかけないようにしていく必要があります。
 なぜならば、「児童生徒への教育」を再開するために準備を進め、被災した児童生徒の対応をすることが学校の本来の業務だからです。避難所生活に対する協力や相談にのっていただけると思いますが、あくまで、避難者が運営することが基本と言えます。

(4)避難所の運営とは
▼避難者が中心となり、行政、学校関係者と協力する
 まず、発災直後は、避難所のスペースとして使う部分を学校関係者と調整します。学校側では避難所のスペースを決めていますから、そのスペースの中で避難者が配分します。避難所には避難者に関する問い合わせも来るので、避難者名簿を作成する必要があります。被害状況や避難者の状態を踏まえて、食事や物資の配給方法や避難所、トイレの掃除、会話や遊びのためのスペースの設置、赤ちゃんや高齢者などの災害時要援護者への配慮などを避難者自身が考え、決めていきます。避難者からの要望は、避難者自らが取りまとめて市町村等へ提出します。そのほか、ボランティアや施設管理者(校長先生など)との連絡や生活に必要なことは市町村と相談しながら自分たちで考え、きめ細かく対応していく必要があります。
 こうした対応をできるだけスムーズに行うためには、自主防災組織と学校関係者、市町村などが日頃から連携し、「避難所運営マニュアル」を作成したり、避難所運営の訓練を実施するなどの準備を進めておくことが大変重要です。

(6)水や食料が足りなくなりそう
▼発災直後は、自分たちの持ちものを活用する
 
 大規模な地震が発生すると、公安委員会・警察は道路の交通規制を行い、緊急的に移動を必要とする機関(消防、警察、自衛隊など)を専用に通行させる「緊急交通路」を確保します。
 被災地には、まず救命・救護を優先させ、次に物資等を運ぶ車両が緊急交通路を通って、救援・支援物資の輸送、配給を行います。県や市町村では、食料、飲料水、毛布、仮設トイレなどを備蓄していますが、発災直後は日常とは異なり、直ぐに希望する物資を手にすることは困難です。そのため、寝る場所、食事、トイレなど不便が予想されます。できる限り、避難者自ら、食料、毛布などを持参することが大切です。
 発災直後は、救援物資をあてにせず、自ら備蓄した水や食料、また冷蔵庫に残っているものや買い置きしてあった物資で対応しましょう。また、避難所等に避難した人は自ら、救援・支援物資の受け入れ、配分等を行えるよう市町村の職員と連絡を取りながら、体制を検討することが必要です。
++++++++++++++++++++++
++++++++++++++++++++++++

第一に勉強になるのは、避難者は避難したと同時に、自治の主体として期待されているということです。東日本大震災で知らされたように、首長や自治体幹部、数多くの職員が被災してしまえば、行政活動そのものが成り立たなくなる場合もあります。避難所に駆け込んだからと言って、自動的に庇護が与えられるわけではまったくないのです 

むしろ、避難所は修羅と化しているかも知れません。

東北地方と違って、都市化が進んだ首都圏では、自治組織がしっかりしていないところが多いと思います。隣の人の顔も知らないという人たちが、大量に避難所に寄り集まるでしょう。そこで、だれがどうやってその場を仕切るのか、ただでさえ不足している水や食料をどう配分するのか、混乱ぶりは想像を超えます。

千葉県が勧めている通り、筆者も首都圏都市部の住民が自分でできる極めて有効な防災策は、自宅でなるべく長く暮らせる方策を取ることだと思います。被災直後の混乱をやり過ごすことができるだけでも、大幅にリスクを減らせると思います。

避難所に放り出されてから、日頃の準備不足を嘆いたり、行政の対応を批判したりしても、水や食料が湧いてくるわけもありません。安全を人任せにして、当てが外れても損するのは自分です。

最終的に頼れるのは自分だけなのです。


前の10件 | - 第1章「なぜ2か月なのか」 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。