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「最低3日」が国の方針 [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回まで、首都直下地震のうちでも最も恐れられている「東京湾北部地震」に関して国や東京都などが想定する被害を長々と見てきました。改めて物流面への影響を整理すると

1)被災直後は、大量の徒歩帰宅者や帰宅難民で道路があふれかえり、一部の幹線道路は通勤電車並みの混雑となる。

2)被災直後は、多くの生活道路が、火事や建物の倒壊により通れなくなる。一方で、都内の主要幹線道路は緊急車両を優先し、一般車両は通行止めになる。

3)各所で道路の橋梁や橋脚が損傷する。在来線の鉄道網にも大きな被害が出る。

4)高速道路、新幹線などの線路にかかる跨線橋が落ちたり、倒壊した建物が高速道路に落ちたりして、高速輸送の大動脈にもダメージが予想される。

5)港湾機能も相当程度いかれる。

という状況が起きます。被災した直後から一定期間は、首都圏には大量輸送ができなくなるのです。

問題は、「一定期間」の長さです。

国の中央防災会議が2005年9月にまとめた「首都直下地震対策大綱」には、ライフラインの復旧目標が記されています。このうち物流に関する部分は、

○道路
 緊急輸送道路のうち、首都中枢機能の継続性確保のために特に重要な区間については、道路橋の被災、沿道建築物の倒れ込み、渋滞等による通行障害が発生しても、1 日以内に緊急車両等の通行機能を確保できるようにする。

○航空
 1時間以内に被災状況の確認を行い、その後順次、応急復旧を実施した滑走路等により運用を開始する。

○港湾
 ライフライン拠点施設に近接する緊急物資輸送に対応した岸壁等については1日以内に利用できるようにする。

となっています。

「道路」に関しては、「首都中枢機能の継続性確保のために特に重要な区間」がどこかに当たるかが不明です。首相官邸、国会、中央省庁、日銀、東京証券取引所等を含むエリアかなあ、と思います。いずれにしても、被災者が大量に出る住宅地ではなさそうです。

「港湾」についても、「ライフライン拠点施設に近接する緊急物資輸送に対応した岸壁」の具体的なイメージは書いてありません。 しかし、海岸沿いのライフライン拠点施設といえば、発電所や製油所が思い浮かびますので、原油や天然ガスの積み下ろしが想定されているのではないかと思います。少なくとも、一般の食料を対象とした岸壁ではなさそうです。

つまり、復旧目標は、国の中枢機能を維持するために定められているのであり、一般の被災者、住民の救済のために定められているのではないのです。

もちろん、国の中枢機能が維持できなければ、一般国民の救済や復興もできないわけですから、当然と言えば当然ですが、首都の被災は、他地域の被災とは異なり、優先順位が被災者救済より国家機能の維持に置かれていることを忘れてはいけないと思います。

では、「一般国民にとっての物流」が機能を回復する期間はどのくらいなのか。

残念ながら「大綱」には、見通しも目標も書いてありません。しかし、一般家庭の食料備蓄については、あっさりとですが、触れています。その部分を引用します。

「国、地方公共団体は、各家庭において最低限3日分の食料・飲料水及び生活必需品の備蓄を促進する」

なぜ「最低限3日」なのか根拠は示されていませんが、それ以降は徐々に物流が回復するという前提があるのは、間違いないでしょう。

しかし、「最低限」という言葉には、「本来それでは不十分」という含意があります。これは危機管理の問題なのですから、「最低限」だけではなく、「できれば望ましい」日数や「これならほぼ十分」な日数を示してもらわないと、備えることができません。命がかかっている問題について、「最低限」の水準だけを示されても、困ってしまいます。

筆者は、「3日間」の復旧は相当に難しいと考えています。これまでの被災想定を見れば、そう簡単ではないというのが実感ですし、以下のように、関係者自身が、3日間の復旧には確信が持てていないことがうかがえるからです。

この大綱の叩き台となった中央防災会議の「首都直下地震対策専門調査会報告案」には、「鉄道」に関する記述があります。次の通りです。

「被災の程度が小さい鉄道では、発生から1時間以内に被災状況の確認を行い、3日以内に順次運転を再開し、要員の輸送を支援する」

この部分は、「大綱」からはそっくり外されています。

「報告案」は「航空」に関しても、

「3日以内に、応急復旧を実施した滑走路等により順次運用を開始する」

と明記していました。この、「3日以内に」の部分も「大綱」からはすっかり消えています。

「大綱」で削られた部分は、要は運用当事者の立場から見て、実現する見通しや保証がないということだと思います。鉄道や空運が、3日以内に運用を開始するのは難しいと読むべきだと思います。

 


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