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目標を2か月に設定 [第1章「なぜ2か月なのか」]

新型インフルエンザに対し、国は「最低限(2週間程度)」の備蓄を推奨しています。その根拠は明らかではないものの、この病気が流行すると食料の生産、流通、小売りが機能を失う上、外出の自粛が求められます。このために、「食料が買えなくなるかも知れない期間」が出ることは農水省の備蓄ガイドに示されています。「最低2週間」はこの期間に対応した設定だろうというのが、前回までのおさらいです。

では、 「最低限」ではなく「望ましい」備蓄の期間はどのくらいなのでしょうか。国が示していないので、自分で考えるしかありません。

2007年秋に上梓された「H5N1型ウイルス襲来」(岡田晴恵著、角川SSC新書)は、当初、大きな反響を呼びました。国立感染症研究所研究員(肩書きは当時)というこの問題の専門家が、平易に新型インフルエンザの恐ろしさを解説した入門書だったからです。この本の中に手がかりがあります。

同書は日本で実際にパンデミックが起きることを想定して、場面ごとに解説しています。それによると、

1)海外で発生したら数日(場合によっては2、3日)で日本にやってくる

2)国内で流行したら、流通は停滞し、場合によってはストップしてしまう

3)感染を防ぐためにはできるだけ外出は避けるほうがいいし、政府もそのように呼びかける

4)従って「お金があっても食糧や日用品が買えない事態」が起きうるし、それに備える必要がある

と展開した上で、

「最低2ヶ月程度は買い物のために外出しなくても生活が続けられるだけの備蓄品を用意しておくことをおすすめします」

と明記しています。その根拠としては、「ひとたび新型インフルエンザが流行してしまったら、過去の流行の事例から、最初の流行は六〜八週間続くと考えられています」としています。

これまで見てきたとおり、6〜8週間という流行の期間は政府の想定と同じです。しかし、必要な備蓄の期間は政府が「最低2週間」、岡田さんは「最低2か月」と、4倍も違っています。

どうしてこれほどの差が出るのでしょうか。

東日本大震災後、政府の地震や原発の被害想定が甘すぎるという批判が噴出しました。

確かに実際に起こってみると「甘い」ことは明白なのですが、しかしながら、国民や住民の命や財産を守る立場の国や自治体が、「備えができないほどの大きな被害想定」を平時に示すのは極めて難しい作業だと思います。想定を出した以上、それに備えるのが仕事であり、備えられない想定を出すことは、自己否定につながるからです。責任放棄と言われるリスクもあります。

つまり、政府や自治体の想定には常に「過小評価バイアス」がかかっているというのが筆者の見立てです。一方で、岡田さんの記述は「警鐘を鳴らす」という職業的な役割から、むしろ最悪の事態を想定した対応を求めていると推測します。

であれば、岡田さんが「最低ライン」としている2か月の備蓄当たりが、ちょうどいい頃合いではないかと思います。現実的にも、よほどの広い家ではない限り、2か月分の備蓄というのは限界に近いものがあります。

当ブログはすでに、首都直下型地震について、望ましい備蓄期間を「1か月」と定めました。しかし、前回のブログに記した通り、一般家庭にとっては、備蓄の量や中身は震災にもパンデミックにも対応できないと、現実的ではありません。そこで、当ブログとしては、地震もパンデミックも含めた最適な備蓄量の目標を「2か月」分と定めることにします。

これで「第1章」は終了です。次回以降、備蓄の「中身」の議論に入っていきたいと思います。

 


地震と疫病、ばらばらの政府 [第1章「なぜ2か月なのか」]

気になることがあります。

 

当ブログで何度も触れていますが、国が推奨している食料などの備蓄量は、震災に対しては「最低3日」、パンデミックに対しては「最低2週間」です。

 

でも、そんなことを言われても多くの国民は困ってしまうだけです。震災用とパンデミック用で備蓄を二重に持つというのは非効率で、現実的ではないからです。

 

別の機会に詳しく分析しますが、パンデミック用の備蓄には、冷凍食品なども推奨されています。大震災が起きれば、停電によって痛んでしまう可能性が高いのです。

 

カサ店で、梅雨用のカサと、台風用のカサと、雪用のカサを別々に薦められたら、「全部に対応できるカサをくれ」といいたくなりますよね。

国民が知りたいのは、個々のリスクにそれぞれ対応するための備蓄量ではなく、トータルとして必要な備蓄量です。

 

なぜ推奨量がばらばらになっているのかというと、「地震」と「パンデミック」では、担当省庁が違っているからでしょう。

こういった場合にこそ、政治主導で物事を進めるべきではないでしょうか。内閣府には防災の特命担当大臣がいるわけですから、省庁間の調整を行って、地震にもパンデミックにも対応可能な備蓄量や中身を定めて、国民に示すべきだと思います。


<お知らせ>姉妹サイト入選 [雑談]

当ブログの姉妹サイト「緑のカーテン効果測定プロジェクト」

http://takasurvival.blog.so-net.ne.jp/

 
が、リクルートの「SUUMO緑のカーテンを広げようキャンペーン」で入選しました。

発表のサイトはこちらです。

これまで世界15か国から延べ3万人を超えるみなさんに訪問していただきました。
実験的なサイトとして、多くの反響をいただきました。 
 
ご報告と御礼まで

 


「最低2週間」が国の方針 [第1章「なぜ2か月なのか」]

前回まで、新型インフルエンザの爆発的感染(パンデミック)時に何が起こるかを国の想定をもとに見てきました。

繰り返しになりますが、一度ウイルスの侵入を許せば、国民の25%が感染し、ピーク時には働き手の4割が休んでしまいます。 食料の生産や物流は停滞し、買い急ぎや買い占めが起きて価格もつり上がります。スーパーなどの小売店も休業する可能性があり、お金があっても食品が手に入らないかもしれません。一定の備えがないと、あっという間に食事に事欠く状況に陥り兼ねません。

国も事態を軽視しているわけではありません。 厚労省が定めた「個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、次のような記述があります。

++++++++++

4)家庭での備蓄

○ 新型インフルエンザが海外で大流行した場合、様々な物資の輸入の減少、停止が予想され、新型インフルエンザが国内で発生した場合、食料品・生活必需品等の流通、物流に影響が出ることも予想される。また、感染を防ぐためには不要不急の外出をしないことが原則である。

○ このため、災害時のように最低限(2週間程度)の食料品・生活必需品等を備畜しておくことが推奨される。

++++++++++

すでに見てきたように、首都直下地震に対して国が求めている備蓄の量は「最低3日分」です。2週間は、このほぼ5倍ですから、国が想定する新型インフルエンザ被害の深刻さはこの数字からも明らかです。

ただし、このガイドラインには、2週間の根拠は明示的には示されていません。

別の機会に詳しく分析しますが、農水省の「新型インフルエンザに備えた家庭用食料品備蓄ガイド」には、「新型インフルエンザの流行の周期(流行開始から小康までの期間) は2 ヶ月間程度に及ぶと考えられています。この間、食料品を買う機会はあると考えられますが、できる限り長期間分、最低でも 2 週間分の食料品を備蓄することが推奨されます」との記述があります。

ここから考えると、「最低2週間」というのは、国が想定する「食料品を買う機会がなくなる」期間に対応していると推測されます。

そこで質問です。

「最低でも2週間は食料品を買う機会がなくなる」という想定の時、2週間分の備蓄で安心できますか?

筆者はできません。もっと長期の備蓄が必要だと考えます。

「個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、別添資料として、個人で備蓄する物品の例が記載されています。以下、参考のために引用しておきます。

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(別添2) 個人での備蓄物品の例

○食料品(長期保存可能なもの)の例

米 乾めん類(そば、そうめん、ラーメン、うどん、パスタ等) 、切り餅、 コーンフレーク・シリアル類 、乾パン、 各種調味料、 レトルト・フリーズドライ食品、 冷凍食品(家庭での保存温度、停電に注意)、 インスタントラーメン、即席めん、 缶詰、 菓子、 ミネラルウォーター 、ペットボトルや缶入りの飲料、 育児用調製粉乳

○日用品・医療品の例

マスク(不織布製マスク) 、体温計、 ゴム手袋(破れにくいもの)、 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用)、 漂白剤(次亜塩素酸:消毒効果がある)、 消毒用アルコール(アルコールが 60%~80%程度含まれている消毒薬)、 常備薬(胃腸薬、痛み止め、その他持病の処方薬)、 絆創膏、 ガーゼ・コットン、 トイレットペーパー 、ティッシュペーパー 、保湿ティッシュ(アルコールのあるものとないもの)、 洗剤(衣類・食器等) ・石鹸 シャンプー・リンス、 紙おむつ、 生理用品(女性用)、 ごみ用ビニール袋、 ビニール袋(汚染されたごみの密封等に利用)、 カセットコンロ ボンベ、 懐中電灯、 乾電池


「作れない」「運べない」「買えない」。途絶する食料 [第1章「なぜ2か月なのか」]

政府が平成 21 年 2 月17 日にまとめた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の巻末には、「新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定(一つの例)」というタイトルの別文書が掲載されています。国民の4分の1が罹患する疫病の発生から終息まで何が起こるのかを時系列的にシミュレーションしたものです。

このブログは食料備蓄の適正な量と中身を定めるのが目的ですから、この目的に沿って、エッセンスを抜粋します。なお、筆者が重要だと考える部分のうち、食料供給に関連する部分は青色に、食料流通に関連する部分は緑色に、食料消費に関連する部分は赤色に加工しています。

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新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定(一つの例)

第一段階

海外発生・国内未発生期。発生国・周辺国への海外旅行・出張の中止。

食料品・生活必需品を買い求める市民が増加。

第二段階

(国内発生早期) 

<感染状況>

○2週間後~4週間。国内で新型インフルエンザが発生、感染集団は小さく限られる 

<水際対策>

海外旅行・出張の中止 

○多数の在外邦人が帰国を希望 

○発生国との間を中心に定期便の多くが運航停止

<医療サービス>

○国民の不安が高まり、受診者が増加。

<集会・興行等の自粛要請>

○百貨店、劇場、映画館等の集客施設への来客が減少。休業する施設が増加。

○全国で集会・興行等の自粛要請。

<学校休校の要請>

○学校での感染拡大のおそれ。休校する学校が増加。 

○全国で休校の要請 

<不要不急の事業活動中止の要請>

○発生地域の公共交通機関・職場で感染のおそれ。一部の事業所が休業

○不要不急の事業活動自粛の要請

○公共交通機関における感染防止策の要請 

<一般企業の事業活動 >

○不要不急の業務の縮小

○事業継続計画に基づく人員体制等の変更 

 ・通勤手段の変更 

    ・時差出勤の導入 

    ・在宅勤務の導入  

<介護サービス(入所施設)>
 
○感染者が1人でも出れば、施設内は短期間でまん延 
 
<公共交通>
 
○外出自粛により公共交通機関に対する需要が減少
 
○徒歩・自転車・自動車等による通勤が増加 
 

<ガソリンスタンド>

○ガソリン不足を予想し、客が増加 

<通信>

○外出自粛や在宅勤務体制への移行等により、電話・インターネットの通信需要が増加

<金融>

○現金を引き出す市民が増加(ATMの利用が増加)

<物流(貨物運送、倉庫等)>

○事業活動休止又は稼働率低下により、物流量が減少

○中小事業者は休業する可能性

○宅配、通信販売等に対する需要が増加

<食料品・生活必需品の輸入・製造>

○市民の買い占めにより食料品・生活必需品が不足、価格上昇

<流通(小売、卸売)>

○中小事業者は休業する可能性

○宅配、通信販売等に対する需要が増加  

第三段階

(感染拡大期) 

 <感染状況>

○4週間後〜。国内で新型インフルエンザの大規模集団発生が見られる 

<医療の提供>

○受診者が急増

患者受入れ医療機関の拡大

○疑い患者への入院勧告(患者隔離)

<一般企業の事業活動>

○不要不急の事業の休止(従業員の安全確保と企業の存続等のバランスを勘案の上、必要最小限の事業を継続) 

○事業継続計画に基づく人員体制の変更 

<医療サービス>

○一部の医療機関では新型インフルエンザへの業務資源の重点的投入のため、診療科目を限定

○爆発的に需要が増え、医療機関における業務資源(医療従事者、医薬品、資器材、ベッド等)が大きく不足。一時的に業務を中断せざるを得ない医療機関が出現するおそれ 

<電気・水道・ガス・熱供給>

○感染防止の観点から、窓口業務やカスタマーサービス業務等を中断

○保守・運用の従業員不足により地域的・一時的に停電等が生じるおそれ

<公共交通>

○従業員不足により、運行本数が減少 

○外出自粛・通勤手段の変更により、公共交通機関への需要が大幅減少 

<ガソリンスタンド>

○公共交通機関を避け、乗用車の利用が増加するものの、社会活動水準が大きく低下するため、ガソリンに対する需要は減少

○発生国・地域によっては、燃料輸入が中断 

○従業員不足により、地域的・一時的に供給停止 

○中小企業の資金繰りが悪化

<通信>

○外出自粛や在宅勤務体制への移行等により、電話・インターネットの通信需要が増加

○通信需要増に伴う一時的な通信速度の低下

○窓口業務、カスタマーサービスの中断(従業員不足又は感染予防対策のため)

 <物流(貨物運送、倉庫等)>

○従業員不足による集配の遅延、サービスの中断 

○物流量が大幅に減少

○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 

<食料品・生活必需品の輸入・製造>

○海外での感染拡大に伴い、食料品等の輸入が一時的に中断
 
○国内での感染拡大伴い、食料品等の製造が減少 

 

流通(小売、卸売)>

○従業員不足・休市等により卸売市場機能が低下し、生鮮食料品等の流通も一時的に中断 

○小売店の従業員不足や物流機能の混乱により物資流通が遅延又は中断

○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 

 

第三段階

(蔓延期、回復期)

<感染状況>

6週間後〜

○国内で急速に感染が拡大 

○国内侵入から 6〜7 週目に感染がピーク、8 週目以降から減少傾向

○地域毎にピーク時期は異なる、地域毎の流行期間は 6~8 週間程度

<水際対策>

○海外渡航全般の自粛勧告

○国内での感染拡大に伴い、水際対策を終了

<医療の提供> 

○患者が急増し、病床や医薬品が不足

<集会・興行等の自粛要請>
 
○集客施設へ来客が激減。全ての施設が休業
 
○全国で集会 興行等の自粛要請
 
<学校休校の要請> 
 
 ○全国全ての学校が休校
 
<不要不急の事業活動中止の要請> 
 
○公共交通機関の本数減少。多くの事業所が休業
 

第四段階

(小康状態) 

<感染状況>

17週間後〜

上記のもろもろの事象が徐々に平常時に復旧へ


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この表の色つき部分を見ながら、食料供給に何が起きるのかを考えます。
 
食料生産は減少します。世界的な感染爆発ですから、○国内での感染拡大伴い、食料品等の製造が減少するのみならず、海外での感染拡大に伴い、食料品等の輸入が一時的に中断します。感染の拡大に伴って農業や水産業などの第一次産業従事者の生産活動が内外で低下するためですが、食料供給の約6割を他国に依存している日本にとっては、危機的なことです。
 
食料流通にも大きな制約が発生します。
貨物運送、倉庫等では、○従業員不足による集配の遅延、サービスの中断 が想定されていますが、心配はそれだけではありません。
 
国内感染の初期では、 ○外出自粛により公共交通機関に対する需要が減少する一方で、ガソリンスタンドは、○ガソリン不足を予想し、客が増加します。続いて、産油国など○発生国・地域によっては、燃料輸入が中断 することも予想されています。例え感染しなかった従業員が何とか荷物を運ぼうとしても、燃料が足りない可能性があるのです。
 
一方で、感染の拡大に伴って、人々は自宅に籠もるようになります。感染のピーク時になれば、政府は外出自粛を呼びかけますし、そうでなくても、会社も休業、学校は休校、大規模な集会施設やイベントは閉鎖します。罹患した時でさえ、大量の患者をさばき切れない医療機関は重症でない限り、自宅での安静を求めることになります。その結果、○宅配、通信販売等に対する需要が大幅に増加 するのです。
 
このことは、ただでさえ細っている物流網をさらに逼迫させることになると思います。小口多頻度輸送の代表である宅配や通販が増えれば、物流の効率は低下します。人員、燃料が限られた中では、いっそうです。
 

その結果として、○物流量が大幅に減少します。

卸業者や小売業者では、○従業員不足・休市等により卸売市場機能が低下し、生鮮食料品等の流通も一時的に中断 します。○小売店の従業員不足や物流機能の混乱により物資流通が遅延又は中断します。

つまり、食料は「作れない」「運べない」「買えない」という三重苦に陥り兼ねないのです。

消費の現場では、国内感染が始まる前から、食料品・生活必需品を買い求める市民が増加。国内感染が始まると○市民の買い占めにより食料品・生活必需品が不足、価格上昇します。外出自粛になれば、会社にも学校にも行かずに自宅に籠もる必要がでてきますから、食料が自宅にあるかないかは死活的な問題になりかねません。

このブログの第1回にも記した通り、 東京都の食料自給率はわずか1%。神奈川県は3%、千葉県でも約30%です。首都圏は、他地域からの食料供給が途絶すると、途端に干上がる構造に置かれているのです。だから、首都圏住民は特に、食料備蓄を充実させる必要があります。

しかも、全国的な感染は8週間続くと想定されています。食料供給が正常に戻るまで、家族が食いつなぐ手立ては自分たちで考えるしかないのです。地震と比べると、人的な交流が遮断されるパンデミックは孤独な戦いといえます。


 

 



身構える時間はある [第1章「なぜ2か月なのか」]

政府が平成 21 年 2 月17 日にまとめた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」には、新型インフルエンザが発生した場合に社会や経済がどうなってしまうかのシミュレーションが記されています。これから数回にわけて、解説してみます。まずはインフルエンザの被害概要です。

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新型インフルエンザによる人的被害

発症率 25%(「新型インフルエンザ対策行動計画」による) 
致死率 0.5%~2.0%
欠勤率

 20~40%

・最大40%程度の欠勤率

・業種・地域により流行のピークに差がある

(被害想定作成上の1 つの仮定) 

欠勤期間

 10 日間程度

(被害想定作成上の1 つの仮定) 

到達時間 

 海外で発生してから日本到達まで2~4 週間程度

 (被害想定作成上の1 つの仮定)

流行の波

 流行は8 週間程度

・国の介入により変わる可能性あり(流行のピークがなだらかで期間が長引くなど)

・地域により、流行のピークの大きさや時期に差が生じる可能性ある 


ここから、色んなことが読み取れます。

まず第一に、地震との比較で言えば、パンデミックはやや、時間に余裕があるかもしれないということです。

この想定では、海外で発生してから日本に到達するまでに最低でも2週間あります。もちろん、もっと早く日本に入ってきたり、あまりなさそうとはいえ、日本が最初の発生地になったりする可能性もゼロではないでしょうが、それでも、突然襲ってくる地震に比べれば、対応する時間は十分すぎるほどあります。これは地震にはない大きな救いです。

一方で、 地震に比べて過酷なのは、被害が国民の25%にも及び、流行が8週間も続くことです。罹患すると10日間は欠勤し、ピーク時には欠勤率は40%に達します。4割の人たちが仕事を休んでしまうのです。当然、社会の機能はマヒしてしまいます。

「ガイドライン」はその最後に、 「新型インフルエンザ発生時の社会経済状況の想定」と題した別文書を含んでいます。そこには、社会の機能がどうマヒしていくのかが、順を追って説明されています。



JR東 首都圏主要駅に2万人分の備蓄<読売新聞  [雑談]

4日付け読売新聞夕刊に興味深い記事が掲載されていました。

 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111004-OYT1T00700.htm(リンク切れありえます)

JR東日本が、被災して自宅に帰れなくなった帰宅困難者対策として、首都圏主要駅に2万人分の飲料水や毛布、緊急用品などを備蓄する方針を固めたといいます。食料についての記述がないので、恐らく食料備蓄は含まれてないと思われますが、望ましい方向への一歩であることは間違いありません。

しかし、首都直下地震の被害として想定されている帰宅困難者は650万人もいますので、多勢に無勢という気もします。JR以外の私鉄なども追随してもらいたいものです。

 

 


中央防災会議、関東大震災級を想定へ [雑談]

新聞等で大きく報じられたのでご存知の方も多いと思いますが、中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」は9月28日に報告書を公表しました。とても大胆な報告書です。

このブログでは何度も、中央防災会議の地震被害想定を引用してきましたが、報告書はその想定が甘かったと率直に反省しています。5章「被害想定について」の一部です。 下線は筆者。

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(2)従前の被害想定と東日本大震災の被害
○中央防災会議の下に設置された専門調査会が平成17年度に公表した日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の被害想定は、物的被害(建物被害、地震火災、災害廃棄物)、人的被害(死者、避難所生活者等)、ライフライン被害(電力、通信、ガス、上水道等)、交通被害(道路、鉄道、港湾)及び経済被害(直接及び間接被害)ついて定量的に算定していたが、今回の津波による被害は、津波高、浸水域、人的・物的被害などにおいて、従前の想定をはるかに超える結果となった
 
○また、定量的な被害想定を行わず、定性的に被害シナリオを考えていた津波火災や行方不明者の発生、発電所、変電所や送電線の地震の揺れや津波による損壊、取水場、浄水場や下水処理場、石油貯蔵タンク等の地震の揺れや津波による損壊などについても、甚大な被害が発生した。 
 
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このブログで扱ってきた首都直下地震に関する中央防災会議の被害想定も、平成17年度の公表であることに注意したいと思います。報告書は反省を踏まえ、被害想定と防災対策を見直すべきと指摘しています。3章(2)全体を引用します。下線は筆者。

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 3.防災対策で対象とする地震・津波の考え方について

(2)今回の東日本大震災を踏まえた今後の想定地震・津波の考え方

○対象地震・津波を想定するためには、できるだけ過去に遡って地震・津波の発生等をより正確に調査し、古文書等の史料の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づく調査を進めることが必要である。この調査検討にあたっては、地震活動の長期評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会と引き続き十分に連携し実施する必要がある。

○この際、地震の予知が困難であることや長期評価に不確実性のあることも踏まえつつ、考えうる可能性を考慮し、被害が想定よりも大きくなる可能性についても十分に視野に入れて地震・津波を検討する必要がある。

○すなわち、今後、地震・津波の想定を行うにあたっては、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである

○また、具体的な防災対策を検討する際に、想定地震・津波に基づき必要となる施設整備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある

○地震・津波の発生メカニズムの解明等の調査分析が一層必要となってくる。中でも、数千年単位での巨大な津波の発生を確認するためには、陸上及び海底の津波堆積物調査や海岸段丘等の地質調査、生物化石の調査など、地震学だけでなく地質学、考古学、歴史学等の統合的研究の充実が重要である。

○また、今回の巨大な津波の発生原因と考えられる海溝付近の状態を正確に把握するために、陸上だけでなく、海底において地殻変動を直接観測し、プレートの固着状態を調査するなど、地震学に基づく想定地震・津波の精度向上の研究推進を一層努める必要がある。

○今回のマグニチュード9.0の地震による巨大な津波は、いわゆる「通常の海溝型地震の連動」と「津波地震」が同時に起きたことにより発生した。このような地震は、東北地方太平洋沖地震が発生した日本海溝に限らず、南海トラフなど他の領域でも発生する可能性がある。したがって、今後の津波地震の発生メカニズムと、通常の海溝型地震と津波地震の連動性の調査分析が進み、その発生メカニズムが十分に解明されることが、今後の海溝型巨大地震に伴う津波の想定を行うために重要である。

○今回の東北地方太平洋沖地震は、大きな揺れとともに巨大な津波が発生したが、津波地震が単独で起きた場合には、大きな揺れを伴わず、住民が避難の意識を喚起しない状態で突然津波が押し寄せる可能性がある。1611年慶長三陸沖地震や1896年明治三陸地震などの津波地震により過去に大きな被害が繰り返されたことから、津波地震を想定した警報や避難に関して特段の対策が必要となる。

○原子力発電所等が設置されている地域では、被災した際にその影響が極めて甚大であり、安全性に配慮する観点からも、想定地震・津波の検討にあたっては、地震の震源域や津波の波源域についてのより詳細な調査分析が必要である。

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ここから読み取れることは二つあります。
まず、国の防災のあり方を検討する最高機関「中央防災会議」の専門家たちが、「もう、想定外だったという言い訳は許されない」と覚悟を決めた、ということです。
 
もう一つは、防災当局として、とても対策が立てられないような被害想定は、これまであえてなされてこなかったことが示唆されている点です。「具体的な防災対策を検討する際に、想定地震・津波に基づき必要となる施設整備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」という部分です。
 
政府や自治体が「お手上げ」になってしまうような被害想定を作れば、国民や企業が、これまで以上に自主的な防災意識を持って対策に乗り出す効果が期待できますが、一方で、「責任逃れ」だとして、国や自治体が批判される可能性もあります。「恐怖のシナリオをまき散らした」という人も必ずでてくるでしょう。その意味で、今後、どのような想定がなされるのか興味深いところです。
 
当ブログのスタンスは、「よく調べもしないで、国や自治体を当てにしていても、いざとなった時、誰も責任をとってくれるわけではない」ということですから、新しい方針に賛成です。 
 
さて、当ブログは首都圏住民を対象にしていますので、首都圏に関する被害想定がどう変わるのかが最大の関心事です。 8章「今後の大規模地震に備えて」より、当該部分を抜き出します。下線筆者。
 
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(1)海溝型巨大地震の被害の特徴
○(今回の東日本大震災では)極めて広範囲に発生した地盤沈下、液状化現象、首都圏における大量の帰宅困難者の発生など、従前には十分に想定しえなかった現象や事態が生じ、海溝型巨大地震はその被害が甚大かつ広域化するという特徴も明らかとなった。
 
○例えば、東海地震や東南海・南海地震により震度6弱以上の揺れ等が想定されることにより地震防災対策を強化・推進すべきとされている市町村の人口は我が国の総人口の約3分の1、製造品出荷額等は全国の約2分の1を占めるなど人口・産業が非常に集積している地域である。南海トラフの巨大地震が発生した場合、人的・経済的被害は甚大になる可能性が高い。なお、例えば東京湾における石油貯蔵タンクの火災、液状化現象、長周期地震動による超高層ビル等の被害の発生など、上記の地域以外においても甚大な被害が発生する可能性があることに十分留意しておく必要がある
 
○今回の東日本大震災では、地震規模を考えるとそれほど大きくなかったものの、広範囲に渡って多数の建物被害があった。また、超高層ビル等を揺する長周期地震動は地震の規模を考えると比較的小さかったが、それでも震源から遠く離れた地域においても長周期地震動による超高層ビルの被害も報告されているように、近い将来発生が懸念される南海トラフの海溝型巨大地震では、地震動の周期特性等や伝搬の仕方によっては長周期地震動が強く発生する可能性があり、超高層ビル等に甚大な被害が発生することが懸念される
 
○今回の東日本大震災では、甚大な被害や多数の被災者が発生し、大量の仮設住宅が必要とされたが、用地確保等の問題で、設置時期や設置場所の面で被災者の要求に十分応じることが出来なかったとの指摘がある。南海トラフの海溝型巨大地震や首都直下地震等が発生した際にも、同様の問題が発生することが懸念される
 
 
(2)今後に向けての備え
○首都直下地震については、現行の首都直下地震の想定対象とされていない相模トラフ沿いの規模の大きな地震、いわゆる関東大震災クラスの地震についても、本専門調査会による報告を踏まえ、想定地震として検討を行うべきである
 
○首都直下地震が発生した場合、首都における被害の大きさや社会経済に与える影響は甚大であり、首都中枢機能の継続性確保、広域応援体制、帰宅困難者対策、膨大な数の避難者対策等について、東日本大震災を踏まえた検証を実施した上で、対策を強化する必要がある
 
○最新の科学的知見を踏まえ、首都直下で発生する地震の規模、揺れ、津波等について点検し、必要に応じ、見直しを行うことが必要である
 
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「関東大震災クラスの地震」を想定するべきとあるところは、下線部の中でも特に太字で強調しました。
関東大震災クラスの地震というのは、マグネチュード8クラスです。これまでは、「今後100年以内に起きる確率はほとんどない」とされてきたので、被害が想定されていません。現在の想定は、最大で「東京湾北部地震」のマグネチュード7.3です
 
地震のエネルギーはマグネチュードが0.2増えるごとに倍になるということですから、エネルギー量ではこれまでの想定の8倍を超える地震について、やり直すことになるのでしょう。
 
当ブログでは、地震対応の備蓄量は1か月がメドとしていますが、新しい想定が公表されれば、見直す必要がでてくると思われます。 

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