SSブログ

中央防災会議、関東大震災級を想定へ [雑談]

新聞等で大きく報じられたのでご存知の方も多いと思いますが、中央防災会議の「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」は9月28日に報告書を公表しました。とても大胆な報告書です。

このブログでは何度も、中央防災会議の地震被害想定を引用してきましたが、報告書はその想定が甘かったと率直に反省しています。5章「被害想定について」の一部です。 下線は筆者。

+++++++++++++
 
(2)従前の被害想定と東日本大震災の被害
○中央防災会議の下に設置された専門調査会が平成17年度に公表した日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の被害想定は、物的被害(建物被害、地震火災、災害廃棄物)、人的被害(死者、避難所生活者等)、ライフライン被害(電力、通信、ガス、上水道等)、交通被害(道路、鉄道、港湾)及び経済被害(直接及び間接被害)ついて定量的に算定していたが、今回の津波による被害は、津波高、浸水域、人的・物的被害などにおいて、従前の想定をはるかに超える結果となった
 
○また、定量的な被害想定を行わず、定性的に被害シナリオを考えていた津波火災や行方不明者の発生、発電所、変電所や送電線の地震の揺れや津波による損壊、取水場、浄水場や下水処理場、石油貯蔵タンク等の地震の揺れや津波による損壊などについても、甚大な被害が発生した。 
 
+++++++++++++++
 

このブログで扱ってきた首都直下地震に関する中央防災会議の被害想定も、平成17年度の公表であることに注意したいと思います。報告書は反省を踏まえ、被害想定と防災対策を見直すべきと指摘しています。3章(2)全体を引用します。下線は筆者。

++++++++++++++++

 3.防災対策で対象とする地震・津波の考え方について

(2)今回の東日本大震災を踏まえた今後の想定地震・津波の考え方

○対象地震・津波を想定するためには、できるだけ過去に遡って地震・津波の発生等をより正確に調査し、古文書等の史料の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づく調査を進めることが必要である。この調査検討にあたっては、地震活動の長期評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会と引き続き十分に連携し実施する必要がある。

○この際、地震の予知が困難であることや長期評価に不確実性のあることも踏まえつつ、考えうる可能性を考慮し、被害が想定よりも大きくなる可能性についても十分に視野に入れて地震・津波を検討する必要がある。

○すなわち、今後、地震・津波の想定を行うにあたっては、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである

○また、具体的な防災対策を検討する際に、想定地震・津波に基づき必要となる施設整備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある

○地震・津波の発生メカニズムの解明等の調査分析が一層必要となってくる。中でも、数千年単位での巨大な津波の発生を確認するためには、陸上及び海底の津波堆積物調査や海岸段丘等の地質調査、生物化石の調査など、地震学だけでなく地質学、考古学、歴史学等の統合的研究の充実が重要である。

○また、今回の巨大な津波の発生原因と考えられる海溝付近の状態を正確に把握するために、陸上だけでなく、海底において地殻変動を直接観測し、プレートの固着状態を調査するなど、地震学に基づく想定地震・津波の精度向上の研究推進を一層努める必要がある。

○今回のマグニチュード9.0の地震による巨大な津波は、いわゆる「通常の海溝型地震の連動」と「津波地震」が同時に起きたことにより発生した。このような地震は、東北地方太平洋沖地震が発生した日本海溝に限らず、南海トラフなど他の領域でも発生する可能性がある。したがって、今後の津波地震の発生メカニズムと、通常の海溝型地震と津波地震の連動性の調査分析が進み、その発生メカニズムが十分に解明されることが、今後の海溝型巨大地震に伴う津波の想定を行うために重要である。

○今回の東北地方太平洋沖地震は、大きな揺れとともに巨大な津波が発生したが、津波地震が単独で起きた場合には、大きな揺れを伴わず、住民が避難の意識を喚起しない状態で突然津波が押し寄せる可能性がある。1611年慶長三陸沖地震や1896年明治三陸地震などの津波地震により過去に大きな被害が繰り返されたことから、津波地震を想定した警報や避難に関して特段の対策が必要となる。

○原子力発電所等が設置されている地域では、被災した際にその影響が極めて甚大であり、安全性に配慮する観点からも、想定地震・津波の検討にあたっては、地震の震源域や津波の波源域についてのより詳細な調査分析が必要である。

++++++++++++
 
ここから読み取れることは二つあります。
まず、国の防災のあり方を検討する最高機関「中央防災会議」の専門家たちが、「もう、想定外だったという言い訳は許されない」と覚悟を決めた、ということです。
 
もう一つは、防災当局として、とても対策が立てられないような被害想定は、これまであえてなされてこなかったことが示唆されている点です。「具体的な防災対策を検討する際に、想定地震・津波に基づき必要となる施設整備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」という部分です。
 
政府や自治体が「お手上げ」になってしまうような被害想定を作れば、国民や企業が、これまで以上に自主的な防災意識を持って対策に乗り出す効果が期待できますが、一方で、「責任逃れ」だとして、国や自治体が批判される可能性もあります。「恐怖のシナリオをまき散らした」という人も必ずでてくるでしょう。その意味で、今後、どのような想定がなされるのか興味深いところです。
 
当ブログのスタンスは、「よく調べもしないで、国や自治体を当てにしていても、いざとなった時、誰も責任をとってくれるわけではない」ということですから、新しい方針に賛成です。 
 
さて、当ブログは首都圏住民を対象にしていますので、首都圏に関する被害想定がどう変わるのかが最大の関心事です。 8章「今後の大規模地震に備えて」より、当該部分を抜き出します。下線筆者。
 
 +++++++++++++++
(1)海溝型巨大地震の被害の特徴
○(今回の東日本大震災では)極めて広範囲に発生した地盤沈下、液状化現象、首都圏における大量の帰宅困難者の発生など、従前には十分に想定しえなかった現象や事態が生じ、海溝型巨大地震はその被害が甚大かつ広域化するという特徴も明らかとなった。
 
○例えば、東海地震や東南海・南海地震により震度6弱以上の揺れ等が想定されることにより地震防災対策を強化・推進すべきとされている市町村の人口は我が国の総人口の約3分の1、製造品出荷額等は全国の約2分の1を占めるなど人口・産業が非常に集積している地域である。南海トラフの巨大地震が発生した場合、人的・経済的被害は甚大になる可能性が高い。なお、例えば東京湾における石油貯蔵タンクの火災、液状化現象、長周期地震動による超高層ビル等の被害の発生など、上記の地域以外においても甚大な被害が発生する可能性があることに十分留意しておく必要がある
 
○今回の東日本大震災では、地震規模を考えるとそれほど大きくなかったものの、広範囲に渡って多数の建物被害があった。また、超高層ビル等を揺する長周期地震動は地震の規模を考えると比較的小さかったが、それでも震源から遠く離れた地域においても長周期地震動による超高層ビルの被害も報告されているように、近い将来発生が懸念される南海トラフの海溝型巨大地震では、地震動の周期特性等や伝搬の仕方によっては長周期地震動が強く発生する可能性があり、超高層ビル等に甚大な被害が発生することが懸念される
 
○今回の東日本大震災では、甚大な被害や多数の被災者が発生し、大量の仮設住宅が必要とされたが、用地確保等の問題で、設置時期や設置場所の面で被災者の要求に十分応じることが出来なかったとの指摘がある。南海トラフの海溝型巨大地震や首都直下地震等が発生した際にも、同様の問題が発生することが懸念される
 
 
(2)今後に向けての備え
○首都直下地震については、現行の首都直下地震の想定対象とされていない相模トラフ沿いの規模の大きな地震、いわゆる関東大震災クラスの地震についても、本専門調査会による報告を踏まえ、想定地震として検討を行うべきである
 
○首都直下地震が発生した場合、首都における被害の大きさや社会経済に与える影響は甚大であり、首都中枢機能の継続性確保、広域応援体制、帰宅困難者対策、膨大な数の避難者対策等について、東日本大震災を踏まえた検証を実施した上で、対策を強化する必要がある
 
○最新の科学的知見を踏まえ、首都直下で発生する地震の規模、揺れ、津波等について点検し、必要に応じ、見直しを行うことが必要である
 
 ++++++++++++
 
「関東大震災クラスの地震」を想定するべきとあるところは、下線部の中でも特に太字で強調しました。
関東大震災クラスの地震というのは、マグネチュード8クラスです。これまでは、「今後100年以内に起きる確率はほとんどない」とされてきたので、被害が想定されていません。現在の想定は、最大で「東京湾北部地震」のマグネチュード7.3です
 
地震のエネルギーはマグネチュードが0.2増えるごとに倍になるということですから、エネルギー量ではこれまでの想定の8倍を超える地震について、やり直すことになるのでしょう。
 
当ブログでは、地震対応の備蓄量は1か月がメドとしていますが、新しい想定が公表されれば、見直す必要がでてくると思われます。 

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。